• 2026.11.03(木)-コラム
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【工務店経営の勘違い #03】属人化が本当に怖いのは、業務が止まることではない

連載「工務店経営の勘違い」#03
決算書に載らないものが、会社の値段を決める。

私も、そうでした。

「あの人がいないと、現場が回らない」。経営者としてその状況を内心では不安に思いながら、どこかで安心もしていました。任せきれる人がいる。頼れる人がいる。それは経営者にとって、ありがたい状態のはずだったからです。

ある工務店の話

ある工務店では、見積の最終チェックをほぼ一人の社員が担っていました。仮にAさんとしておきます。経験が長く、原価の勘所を誰よりも知っていました。

Aさんが体調を崩して数日休んだ事があります。すると見積が数日止まりました。慌てた社長は、Aさんの業務をマニュアルにするよう指示しました。だが出てきたのは、手順だけが書かれた数ページでした。肝心の「どこで判断しているか」は、どこにも書かれていませんでした。

そのとき初めて、もっと怖いことに気づきました。社長はAさんに、強く言えなくなっていたのです。

配置換えの相談も、評価の話も、社長は「Aさんが機嫌を損ねたら」と考えると切り出せない。業務が止まることより、社長の判断が止まっていました。これが本当の問題でした。

思い返せば、兆候はいくつもあったそうです。Aさんの見積に疑問を持っても、「Aさんが言うなら」と誰も確認しなくなっていました。Aさんの休みの希望は、繁忙期でもほぼ通っていました。新しい仕組みを入れたいときも、まず「Aさんは嫌がらないか」を考えていました。会社の方針を決める場面で、一人の社員の顔色が判断材料に入り込んでいたのです。

業務が三日止まったことは、実は大した損失ではありませんでした。本当の損失は、それまで何年も、社長としての判断に見えない制約がかかっていたことのほうなのです。

属人化とは、業務の偏りではなく、会社の中に生まれた力関係なのです。

なぜ、属人化はここまで固定されるのか

属人化というと、多くの経営者は「その人が休んだら業務が止まるリスク」を思い浮かべます。そのため対策も、マニュアル整備やシステム化になりがちです。しかし私は、それが本質ではないと考えています。属人化とは、情報の非対称が生む「力関係」の問題です。

業務の中身を経営者が知らない。すると評価の基準も、報酬の妥当性も、その人の説明に頼るほかなくなります。会社の判断が少しずつ、その人の了解を前提に動き始めます。業務が止まる損失は目に見えますが、経営判断が歪んでいく損失は、決算書のどこにも載りません。これは「見えざる負債」の典型です。一部の社員への依存は、貸借対照表に出ないまま、確実に会社の値段を下げていきます。

しかも属人化は、本人にとっても楽な状態ではありません。休めない、相談できない、辞められない。会社が頼れば頼るほど、その人は孤立していきます。

もう一つ、見落としがちな構造があります。前回、目標を社員の言葉に翻訳する話と、社長が弱音を吐ける場所を社外に持つ話を書きました。属人化が固定されるのも、同じ根にあります。社長が「その業務の中身を、実は自分は分かっていない」と言えないのです。分からないと言えない社長は、分からないまま任せ続けます。任せ続けるほど、分からなくなります。

共通していた3つのサイン

私はこれまで多くの工務店経営者と話してきましたが、属人化が深い会社には次のような共通点がありました。

  • 社長が、その業務の中身を自分の言葉で説明できない
  • その人の意見が、事実上の拒否権として働いている
  • 評価も処遇も、その人だけ「特別」な扱いになっている

「うちは大丈夫」と答える経営者に「その人が明日辞めたら、何が残りますか」と尋ねると、多くの方が言葉に詰まります。私自身、会社を第三者へ譲渡した際に、買い手が最初に確認したのもまさにそこでした。私の経験では、買い手がもっとも厳しく見る項目の一つが、特定の人への依存です。属人化は社内の話にとどまらず、会社の値段に直結します。

だから、こう考える:「二人目をつくる」

では、どう剥がせばよいのでしょうか。うまくいかないと感じるのは、マニュアル化から入る方法です。マニュアルは当人にとって「自分の持っているものを取り上げられる」行為に映りやすく、善意の人ほど心を閉ざしてしまいます。剥がし方は、「二人目をつくる」ことだと私は考えています。

  1. 「後継者」ではなく「並走者」として置く:取って代わる存在ではなく、一緒に走る存在だと最初に伝えます。
  2. 教える側が評価される仕組みにする:「教えること」が処遇に反映されて初めて、情報は手放されます。
  3. 社長自身が、一度その業務を横で見る:「分からない」と言う勇気が、最初の一歩になります。

二人目は、その人から何かを奪うためにいるのではありません。その人が休める会社にするために、いるのです。二人目が育てば、その社員自身も、管理や育成といった本来の力をより発揮できる仕事へ移っていけます。

属人化の解消で最も避けたいのは、矛先が特定の社員に向かうことです。責められるべきなのは、特定の人に集中しても気づけなかった仕組みの側であり、気づかないまま任せ続けた経営の側です。決算書には載りません。けれども、第三者が値段をつけるとき、必ず見られます。社内に、誰かの「頭の中」だけに存在する資産と負債がないか。一度、棚卸ししてみてはいかがでしょうか。

次回は、頑張る社員ほど損をしている会社の話をします。

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