• 2026.09.23(木)-コラム
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引渡しで終わる会社と、引渡しから始まる会社

多くの工務店が、自社の最大の資産を、社員の記憶の中にしまい込んでいる。

それは、OB施主のことです。資産であるOB施主といかに良好な関係性をもち続けるかで、工務店の経営は大きく変わります。

二つの市場が、逆方向に動いています

まず、市場の数字を並べてみます。

新設住宅着工戸数は、2025年度に71万1,171戸となりました。前年度比12.9%減。リーマンショック後の水準をも下回り、62年ぶりの低さです。持家に至っては28万7千戸から19万5千戸へ、1年で9万戸以上減りました。

一方で、住宅リフォーム市場は2025年に7兆5,119億円(矢野経済研究所)。前年比2.5%増で、2026年は7.7兆円が予測されています。団塊ジュニア世代の持家がリフォーム適齢期に入りつつあることが背景にあります。

新築は縮み、既存住宅への投資は伸びている。これは景気の波ではなく、住宅市場の構造そのものが入れ替わりつつあるということです。

ここで大切なのは、リフォーム市場に「参入する」という話ではありません。地域工務店にとってリフォームは、参入するものではなく、すでに持っているものです。

年間20棟を20年続けてきた会社には、400世帯のOB施主がいらっしゃいます。この400世帯は、他社にとっては新規開拓の対象であり、自社にとってはすでに信頼関係のある名簿です。この差は、営業効率にして数倍では効きません。

それでも、なぜ活かせないのでしょうか

OB施主が資産にならない最大の理由は、名簿が「会社のもの」になっていないことです。

現場でよく見るのは、次のような状態です。

  • 引渡し時の情報が、担当者ごとのファイルや個人のスマートフォンに散っている
  • 定期点検の記録が紙で残っているが、集計されていない
  • どのお客様がいつ何を直したか、社長に聞かないと分からない
  • 担当者が退職すると、その担当が持っていたお客様との関係も一緒に消える

つまり、OB施主は資産として存在しているのに、資産として計上できる形になっていません。属人的に持っているものは、いつ失われてもおかしくありません。決算書に載らないのは仕方ないとしても、社内にすら載っていないのは、もったいないことです。

ではどうすべきか

私たちが工務店にお勧めしているのは、次の3段階です。

1. OB施主台帳を、一枚に統合する

まずは形式を問わず、全OB施主を1つの表にします。引渡日、構造・工法、設備の型番と設置年、点検履歴、家族構成、当時の担当者。特に重要なのが設備の設置年です。給湯器はおおむね10〜15年、外壁塗装は10〜15年、シロアリ防除は5年。設置年が入っていれば、いつ何をご提案すべきかが自動的に決まります。営業をかけるのではなく、時期が来たことをお知らせするだけになります。

2. 接点を「イベント」から「定期」へ変える

感謝祭や見学会へのご招待だけでは、接点は年1回で終わります。定期点検(引渡し3ヶ月・1年・2年・5年・10年)を、営業活動ではなく品質保証の一部として制度化します。ここで生まれる会話が、リフォームとご紹介の入口になります。これまで見てきた中で、紹介受注比率が3割を超えている会社は、例外なくこの定期接点を持っています。

3. アフター部門の損益を、単独で見る

アフターを「新築のおまけ」として原価に埋め込んでいる限り、それは費用のままです。小規模でも独立した損益で見ると、驚くほど利益率が高いことが分かる場合が多くあります。移動距離が短く、信頼関係があるため商談コストが低く、値引き圧力も小さいからです。密度の経済が効く領域といえます。

「感謝」を「仕組み」に翻訳する

OB施主を大切にしていない工務店の社長に、お会いしたことはありません。皆さん、本当に大切に思っていらっしゃいます。

問題は、それが気持ちのまま止まっていることです。

気持ちは引き継げません。台帳は引き継げます。事業承継の場面に立ち会うと、この差がはっきり出ます。「うちはOB施主との関係がいい」とおっしゃる会社の中で、後継者がその関係をそのまま受け取れる会社は、体感で半分にも満たないのが実際です。前社長が引退した瞬間に、400世帯との関係が個人と一緒に会社を去っていきます。

新築の棟数を追いかける経営から、すでにある関係の上に積み上げる経営へ。人口減少と着工減少が同時に進む時代に、地域工務店が持てるもっとも現実的な強みは、局地戦の深さだと私たちは考えています。商圏を広げるのではなく、同じ商圏の同じお客様と長くお付き合いすること。

引渡しは、ゴールなのか。それとも、スタートなのか。

その定義の違いが、10年後の売上構成を決めていきます。


OB施主を収益に変える仕組みづくりをご支援します

株式会社ソルトは、住宅事業の売上3億〜20億円規模の地域工務店に特化した経営コンサルティング会社です。OB施主台帳の整備、定期点検の制度化、アフター部門の損益管理まで、見える化による収益改革としてご支援しています。

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参考資料

  • 国土交通省「建築着工統計調査」2025年度
  • 矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査(2026年)」

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