• 2026.09.12(木)-コラム
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「大工が足りない」のではなく、「選ばれていない」のかもしれない

地域工務店のアドバイザーをしていると、この2、3年でもっとも多く聞くようになった言葉があります。

「とにかく大工がいない」「棟数を増やしたくても、手が足りない」

事実として、数字は厳しい状況です。総務省の国勢調査によれば、大工の就業者数は2020年時点で約29万8千人。ピークだった1980年の約3分の1です。2025年にはさらに減り、22万人台という推計もあります。加えて2020年時点で50歳以上が約6割、30歳未満は7.2%にとどまります。若い供給は、すでに構造的に細っています。

ですから「いない」というのは、間違いではありません。

ただ、数多くの工務店さまとお話をして見てきた実感として、もう一つ別の事実があります。

同じ商圏、同じ人口減少、同じ職人不足のなかで、常に手が空かない工務店と、慢性的に手配に困っている工務店が、はっきり分かれている。

市場が同じである以上、差を作っているのは市場ではありません。

職人は「価格」で会社を選んでいるわけではありません

まず、よくある誤解から解いておきます。単価を上げれば職人は来る、という考え方です。

単価が低すぎれば当然離れます。しかし単価を上げれば残るかというと、そうはなりません。単価はあくまで足切りの条件であり、選ばれる理由ではないからです。上げた瞬間だけ効いて、半年で元の関係に戻ります。

では職人は何を見て、どの会社の仕事を優先するのでしょうか。現場で聞き取ってきた限り、判断材料はおおむね次の順序です。

1. 仕事が読めるか

来月・再来月の予定が立つかどうか。これが最大です。年間を通じて平準化された発注をくださる会社は、単価が多少低くても優先されます。逆に、忙しいときだけ声をかけて暇なときは音沙汰がない会社は、真っ先に後回しになります。職人にとって、突然空いた1週間は丸ごと損失だからです。

2. 段取りが決まっているか

現場に行ったら図面が変わっている、材料が届いていない、前工程が終わっていない。この待ち時間は職人の持ち出しになります。段取りの悪い会社は、実質的に単価を切り下げているのと同じです。

3. 支払いが早く、正確か

当たり前のようでいて、差がつくところです。締めと支払いのサイトが明確で、追加工事の精算が曖昧にならない会社は信用されます。

4. 誰の仕事かが分かるか

自分が建てた家をお客様がどう喜ばれたのか。それが伝わってくるかどうか。これは情緒の話ではなく、定着率に直結します。引渡し式に職人をお呼びしている会社の職人離脱率は、明らかに低い傾向にあります。

つまり職人が見ているのは、その工務店の経営の質そのものです。工程管理、資金繰り、受注の安定、社内の空気。そのすべてが、外注先には驚くほど正確に見えています。社員より正直に見えている、と言ってもいいかもしれません。

ではどうすべきか

協力会社を「仕入先」の位置から動かすことです。私たちは次の3つをお勧めしています。

1. 発注の平準化を、経営指標として持つ

月別の発注量のブレを可視化します。年間の山谷が2倍以上ある会社は、まずここを削ります。分譲や企画型商品を混ぜてハイブリッド化する理由の一つは、まさにこの平準化にあります。受注の谷を自社商品で埋められる会社は、職人にとって「読める会社」になります。

2. 協力会社会議を、価格交渉の場から情報共有の場へ変える

出来れば毎月、最低でも年に2回、翌期の着工予定と会社の方向性を数字で共有します。「来期は年間◯棟、リノベが◯棟」と先の物件をお伝えするだけで、職人側は自分の予定を組めます。ここで安全管理や現場工程の話しかしていない会社は、関係が毎年ゼロからの交渉になってしまいます。

3. 若手の育成コストを、自社の投資として計上する

大工不足の本質は、育てる主体が消えたことにあります。一人親方化が進み、弟子を取れる体力のある事業者が減りました。であれば、工務店側が育成期間の生産性の低さを一部負担する設計を持つしかありません。3年で戦力になる大工を1人つくれば、10年で30棟以上の施工能力になります。採用広告に使う費用と比べて、決して高い投資ではないはずです。

見えないところに積み上がるもの

協力会社との関係は、決算書のどこにも載りません。貸借対照表に「大工◯人との20年の信頼関係」という科目はありません。

けれど実務では、これは間違いなく資産です。事業承継やM&Aの場面に立ち会うと、買い手が必ず確認するのは「施工体制が引き継げるか」です。社長個人の人間関係だけで職人がつながっている会社は、ここで大きく評価を落とします。逆に、平準化された発注と明確な段取りで職人がついている会社は、そのまま引き継げます。

「大工が足りない」は市場の話。「大工に選ばれていない」は経営の話です。

前者は自社では動かせません。後者は、来月から動かせます。

どちらの問題として扱うかで、5年後の施工能力は大きく変わってくるのではないでしょうか。


施工体制の見直しについてご相談ください

株式会社ソルトは、住宅事業の売上3億〜20億円規模の地域工務店に特化した経営コンサルティング会社です。発注の平準化、協力会社との関係設計、施工能力を前提とした事業計画づくりまで、実際に工務店を20年経営した立場からご支援しています。

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参考資料

  • 総務省「国勢調査」(大工就業者数の推移)
  • 国土交通省「住宅分野における建設技能者の持続的確保懇談会」資料

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