「お客様のために」失敗を許さなかったら、社内から意見が消えた
連載「工務店経営の勘違い」#01 ── 決算書に載らないものが、会社の価値を決める。
私も、そうでした。
「お客様に迷惑をかけるわけにはいかない」。この言葉を、弊社代表の青木は工務店を経営していた18年間で、何百回、社内で口にしたか分かりません。家は一生に一度の買い物です。引渡した後に不具合が出れば、施主の生活そのものが揺らぎます。だから失敗は許されない。その信念に嘘はなかったと、今でも思っています。
現場でミスが出れば原因を突き止め、二度と起きないように手を打ちました。担当者を呼んで、なぜそうなったのかを問いました。それが経営者の責任だと信じていたからです。
そしてある年、社内の不具合報告件数が、前年のおよそ半分になりました。
数字だけを見れば、品質は改善したことになります。自分のやり方は正しかったのだと、当時は受け取りました。
けれど同じ時期、会議で誰も発言しなくなっていたことには、まったく気づいていませんでした。
失敗を許さない会社で減るのは、失敗ではありません。報告です。
部下が学ぶのは「失敗しない方法」ではありません
ここには、経営者にとって都合の悪い構造があります。
失敗が強く咎められる環境に置かれたとき、人が本気で身につけるのは「失敗しない方法」ではなく、「失敗が見つからない方法」です。
表れ方は、だいたい三つに決まっています。
1. 判断を仰ぐようになる
自分で決めれば、間違えたときに自分の責任になります。だから決めません。「社長、これどうしましょうか」が増えていきます。社長は頼られていると感じますが、実際に起きているのは、責任が上へ返品されているだけの現象です。
2. 報告が遅れる
小さな異変の段階では言いません。手遅れになってから、あるいは自分の手で処理しきれなくなってから上がってきます。「報告件数が半分になった」あの年、現場で起きていたことの総量が半分になったわけではありませんでした。社長の耳に届く量が半分になっただけでした。
3. 前例どおりにやる
前例を踏襲していれば、結果が悪くても「言われたとおりにやりました」と言えます。工務店にとって、これは静かに効いてきます。前例どおりの提案しか出てこない設計、前例どおりの見せ方しかしない現場。数年経つと、他社と区別のつかない会社になっています。
つまり、失敗を許さない経営は、リスクを減らしているのではありません。リスクを見えないところへ移しているだけです。そして見えないリスクは、決算書には一行も載りません。
20社を横断して見えてきたこと
現在、青木は地域工務店の経営アドバイザーとして、全国20社超が参加するビジョナリー工務店勉強会を主宰しています。規模は様々ですが、その中で、共通していると感じることがあります。
「うちは風通しがいい」とおっしゃる会社ほど、社員の方に聞くと発言していません。
社長が嘘をついているわけではありません。社長の目の前で、社員は確かに話しています。ただし話しているのは、社長が聞いて機嫌を損ねない範囲の話だけです。社長は「意見が出ている」と受け取り、社員は「言わないほうの話」を持ち帰ります。この認識の差を、社長の側から見つけるのは非常に難しいことです。
もうひとつ、はっきりした傾向があります。若手が3年以内に辞める会社では、退職理由として「怒られたから」はあまり挙がりません。挙がるのは「何を言っても変わらないと思ったから」です。
これは、組織風土の毀損です。目に見えず、数字にも出ず、しかし確実に会社の中に積み上がっていく負債です。私たちはこれを、決算書に載らない「見えざる負債」と呼んでいます。
そして皮肉なことに、この負債を最初に作るのは、たいてい真面目な社長です。お客様のことを本気で考えている社長ほど、社内の失敗に厳しくなります。
だから、こう考えます
では、失敗を許せばいいのでしょうか。そういう話ではありません。お客様の暮らしがかかっている以上、許してはいけない失敗は確実にあります。
私たちが経営者の方にお伝えしているのは、失敗を二つに分けて扱うということです。
① お客様に及ぶ失敗 ── 人ではなく仕組みで防ぐ
引渡し後に生活へ影響が出る種類の失敗は、担当者の注意力に預けてはいけません。ダブルチェック、チェックリスト、第三者検査、着工前の確認会。人が変わっても再現しない設計にします。ここを個人の責任感に頼っている限り、厳しく言えば言うほど、報告だけが消えていきます。
② 社内で完結する失敗 ── 許す。むしろ歓迎する
段取りのミス、社内資料の不備、初めて試した提案がうまくいかなかったこと。これらは会社の外には出ません。ここを咎めると、挑戦の回数がそのまま減ります。減った挑戦は、数年後に「新しいことができない会社」として跳ね返ってきます。
この二分ができていない会社では、すべての失敗が同じ重さで扱われます。すると社員は、いちばん安全な行動──何もしない、決めない、言わない──を選びます。合理的な判断です。責めるべきは社員ではなく、そう選ばせている構造のほうです。
厳しさが品質を作ると思っていましたが、実際に作られていたのは、報告が上がってこない静かな会社でした。
会社の値段は、決算書だけでは決まりません。買い手が見るのは、社長がいなくても意思決定が回るかどうかです。そしてその土台は、社員が「これはおかしいと思います」と言えるかどうか、たったそれだけのところにあります。
意見が出ない会社に、改善は起きません。改善が起きない会社は、良くも悪くもなりません。ただ、静かに古くなっていくだけです。
次回は、その静けさをもう一段深くしている原因について書きます。掲げた目標が高ければ高いほど、社員のやる気が下がっていくという現象についてです。
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