• 2025.08.05(木)-コラム

積極的に、でも厳選採用をしよう

——地域工務店が「人」で未来を拓くために——

1. 採用難の時代に突入——人口減少と人材獲得競争の現実

地域工務店にとって、今や「人材採用」は最重要経営課題のひとつです。特に地方に根ざした中小工務店は、都市部の大手企業と比較して採用競争力において厳しい立場に置かれています。なぜ今、採用がこれほど困難になっているのでしょうか? まずは統計的な背景を押さえておきましょう。

日本全体の生産年齢人口(15〜64歳)は、1995年をピークに減少を続け、2024年時点で約7,400万人。今後さらに減少し、2040年には約6,000万人を割り込むと予測されています(出典:国立社会保障・人口問題研究所)。加えて、高校卒業者数も年々減少。2000年には約180万人いたのが、2024年には約105万人に。これは採用の母集団そのものが年々縮小していることを意味します。

さらに「建設業」のイメージ自体にも課題があります。厚生労働省の統計によれば、2023年の建設業の有効求人倍率は約6.9倍と、全産業平均(約1.4倍)と比べて非常に高い水準。つまり、求職者1人に対して約7社が求人を出している状態で、企業間の人材争奪戦は激化しています。

このような「採用難の時代」において、ただ待っているだけでは人材は確保できません。とはいえ、焦って誰でも採用するのは逆効果です。「積極的に、でも厳選採用をしよう」という姿勢こそが、これからの工務店経営において重要な戦略になるのです。


2. 「誰をバスに乗せるか」——組織の未来を決める選択

名著『ビジョナリー・カンパニー2』(ジム・コリンズ著)に登場する有名なフレーズ、「まずバスに乗る人を選び、次にどこへ行くかを決めよう」。これは経営の本質を突いた言葉です。工務店経営においても、この考え方は極めて重要です。

「今すぐ現場監督が必要だから」「営業が足りないから」——そうした“目の前の穴”を埋めるためだけに採用をしていませんか? 一時的には組織が回っても、数年後にはミスマッチによる退職や組織の停滞を招きかねません。

重要なのは、「この人と10年、20年一緒に働けるか」「会社の価値観に共感し、共に成長していける人か」という視点で人を選ぶことです。採用は、短距離走ではなくマラソンです。将来の組織を形づくる「核となる人材」を見極めることが、経営者としての最大の仕事のひとつです。

特に中小工務店では、「1人の存在感」が大きくなります。大企業のように100人規模の部署があるわけではありません。たった1人の採用が社内の空気を大きく変えることさえあります。だからこそ、慎重に、でも確信を持って「誰をバスに乗せるか」を選びたいものです。


3. 社員の年齢構成を「戦略的に」見直そう

採用戦略を考えるうえで、もうひとつ見逃せないのが「社員の年齢構成」です。特に地域工務店では、「40代・50代ばかり」「20代が定着しない」といった偏りがよく見られます。

年齢構成に偏りがあると、以下のようなリスクが生じます。

  • ベテラン社員が退職したときの“技術断絶”

  • 若手が育たず、将来の幹部が不在

  • 世代間コミュニケーションのギャップ

これを解消するためには、意識的に「年齢バランスを整える採用」が必要です。たとえば、今30代が少ないのであれば、即戦力として30代前半の経験者採用に力を入れる。あるいは、60代社員が多いなら、10年後の引退を見据えた20代・30代の育成採用を今すぐ始めるべきです。

また、「若手が定着しない」という声も多く聞きます。これは年齢構成だけでなく、育成体制や社内文化とも関係します。若手が「居場所がない」「活躍の場がない」と感じてしまう組織では、せっかく採用しても長続きしません。世代間の橋渡しとなる中堅層の採用・育成も重要です。


4. 採用予算は「未来への投資」

では、地域の中小工務店が採用にどれだけ予算をかけるべきなのでしょうか?

結論から言えば、「最低でも年間300万円程度」は見込むべきです。これは求人広告費・採用サイトの運用・合同説明会参加費・インターンシップ経費などを含めた金額です。

たとえば、ハローワークの無料求人だけでは応募が集まりにくくなっている現在、求人媒体の有料プラン(1回数十万円)や、自社採用サイトの制作(初期30万円〜)は必要な投資です。また、採用は「情報戦」です。SNSや動画を活用した「採用ブランディング」も注目されています。これらは一朝一夕にはできませんが、長期的な人材確保のためには欠かせません。

採用にかける予算は「コスト」ではなく「未来への投資」です。「良い人を採用したい」と願うなら、それに見合う情報発信と費用投下が必要です。

また、採用だけでなく「育成」の予算も確保しましょう。採用後の教育費(外部研修・OJT指導・キャリア面談など)を年間1人あたり10万〜20万円は確保するのが理想です。「採ったら終わり」ではなく、「定着・戦力化」までを見据えた予算設計が、持続的な組織づくりを実現します。


5. まとめ——「人を選ぶ力」が経営の実力

これからの工務店経営において、「採用力」は競争力そのものです。

採用が難しくなっている今こそ、経営者自らが「人を選ぶ」目を養い、採用に積極的に関与することが求められます。そして、「目先の人手不足」ではなく、「10年後の会社の姿」から逆算して採用戦略を描きましょう。

「積極的に、でも厳選採用をしよう」——それは、単なるスローガンではなく、組織の未来を変える“経営の選択”なのです。

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