餅まき工務店
はじめに
「餅まき」と聞いて、どれくらいの人がその意味を正しく思い出せるでしょうか。
新築工事の上棟(じょうとう)時に行われる、餅やお菓子・小銭をまく伝統行事。かつては地域住民が集い、にぎやかに祝う風景が当たり前でした。しかし、近年その姿はめっきり減りました。そんな時代の流れの中で、私たち地域工務店に求められる役割は「餅まき工務店」、つまり地域と共存共栄していくものではないでしょうか。
このコラムでは、「餅まき」というキーワードを起点に、地域密着型工務店としての経営哲学、顧客接点、そして今後の在り方について考えていきます。
餅まきの持つ経営的な意味
かつて餅まきは、「上棟式=建前」の主役でした。施主の祝事を地域で分かち合い、棟梁や大工がその技術力と誇りを表す舞台。単なる儀式ではなく、信頼を生むマーケティングでもあり、地域社会への「顔見せ」でもあったのです。
この行為を失うことで、施主をはじめ工務店と地域との接点は確実に減りました。
現代の住宅業界は、広告やSNSが主要な訴求手段となり、「粛々と建てる家づくり」が良しとされる傾向もあります。しかし、それが本当に「地域に開かれた工務店の姿」でしょうか?
餅まきには3つの大きな経営価値が内包されていると考えます。
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認知拡大の場である
地域住民に対し、自社の施工を「祝事」として知らせる機会になります。餅まきに来た子どもたちが、数十年後の顧客になることもあり得るのです。 -
信頼形成の第一歩
現場を公開し、棟梁や職人の姿を見せることは、品質や安心感を担保する効果を持ちます。顔の見える家づくりは、現場の透明性から始まります。 -
顧客の誇りづくり
施主にとっても「自分の家が地域から祝われた」という実感は、長く心に残る思い出となります。これが紹介やファンづくりの起点になるのです。
餅まき復活がもたらす「つながりの再構築」
地域工務店の最大の強みは「距離の近さ」です。土地勘や気候、風土に合った設計提案はもちろんのこと、住まい手と職人の心理的な距離が近いことも重要です。
この距離を縮める行為として、餅まきは非常に象徴的です。
ある地域工務店では、上棟時に「小さな餅まきイベント」を定期開催することで自然集客が生まれるという事もあります。SNSでの拡散、地元フリーペーパーでの紹介も効果的で、少人数でも十分に「地域の目」を引くことができるのです。同時に、いつもはあまり集客が望めない構造見学会を開催する事も一定の効果があると考えています。
また配布する袋には社名入りのチラシを添え、近所への案内状にも手書きのひと言を加える。そうした「意味のある手間」が、地域に温度のあるブランドを根付かせるのです。
餅まきが象徴する、これからの地域工務店像
私たち工務店が直面する課題は、少子高齢化、住宅着工数の減少、人材不足と多岐にわたります。その中で生き残り、選ばれ続ける工務店となるためには、商品力や性能だけでなく「地域にどう関わるか」という視点が重要です。
餅まきのような文化は、合理性や効率性の中では見過ごされがちですが、「人の心に残る行為」としては圧倒的な力を持ちます。
つまり、これからの地域工務店には次のような在り方が求められているのです。
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見せる現場:上棟、完成、引渡しなどのタイミングで、地域を巻き込む小さなハレの場をつくる。
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顔の見える現場運営:現場看板や職人紹介を丁寧に行い、「安心して任せられる現場づくり」を徹底する。
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記憶に残る顧客体験:ただ建てるだけでなく、「楽しかった」と言ってもらえるプロセスを設計する。
これらはすべて「餅まき的な価値観」から出発できます。
最後に:餅をまくのは、想いをまくこと
餅まきを復活させようという提案は、決してノスタルジーではありません。
それは地域との接点を取り戻し、顧客の誇りを生み、ブランドの根を深く張る戦略でもあります。
コストや手間をかけずとも、「近所の方にお菓子を配る」「SNSで上棟を発信する」といった小さなアクションからでも始められます。
餅まきとは、家づくりという人生の節目に、地域の人々と「関わり」を持つ行為。
工務店がまくのは、餅だけでなく、「つながり」「誇り」「未来への布石」なのです。
餅をまく工務店が、選ばれる工務店へ——
これからの工務店経営において、そんな原点回帰こそが、最も新しい価値になるかもしれません。