• 2025.06.21(木)-コラム
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地域工務店が発展するための4要素 —局地性・収益性・継続性・独自性から考える競争優位戦略—

住宅着工数の減少、原価の上昇、人材不足、そしてデジタル化の波。地域密着型工務店を取り巻く環境は今、大きな過渡期にあります。

国土交通省の「建築着工統計」によれば、2023年度の持家着工数は前年比で約9.5%減少。特に地方都市では、新築需要の頭打ちに直面している工務店も多いはずです。このような環境下で生き残り、発展を続けるためには、単なる家づくりの技術だけでなく、戦略的な視点が不可欠です。

本稿では、地域工務店が発展していく上で重要な「4つの経営要素」—局地性・収益性・継続性・独自性—をテーマに、各要素の重要性と取り組み方を解説していきます。


1. 局地性:地域への深い理解が価値になる

地域工務店の最大の強みは、“その土地を知っていること”です。気候・風土・地盤・生活文化まで把握し、地域住民との信頼関係の中で家づくりを行えることは、大手には真似できない資産です。

たとえば、山陰地方では冬季の湿気対策が、九州では高温多湿対策が求められます。全国展開型の住宅メーカーにはない、地場ならではの仕様提案力が「局地性」の真価です。

また、地方自治体と連携した住宅補助制度や、地元材を使った建築など、地域性を活かした事業展開も可能です。中小企業庁によれば、「地域資源を活用した取り組みを行っている企業は業績が安定している傾向がある」と報告されています(2023年中小企業白書より)。


2. 収益性:価値で選ばれ、利益を生む構造へ

中小建設業の収益率は全国平均で営業利益率4.1%(※2022年 国税庁統計)。この数値からも分かるように、地域工務店の多くは「高収益体質」とは言えません。しかし、経営の仕組みを見直すことで収益性を高めることは可能です。

ポイントは、価格ではなく“価値”で選ばれる存在になることです。

  • 原価と粗利率の見える化
    国交省の「住宅市場動向調査」によれば、住宅購入者が住宅会社を選ぶ理由の上位は「価格」「立地」「信頼性」ですが、価格に頼る営業では限界があります。粗利管理・原価低減の仕組みを組み込むことがカギです。

  • LTV(顧客生涯価値)の最大化
    新築後のリフォーム・メンテナンス・外構・紹介など、長期にわたり関係性を維持し、顧客1人あたりの価値を高める戦略が有効です。

  • 無駄な工数・ロスの削減
    設計・施工での二度手間や変更対応、見積漏れなど、「見えない損失」をどれだけ潰せるかが利益に直結します。

経営者が「家を建てる職人」から「利益を設計する経営者」へと意識転換することが、収益性を変える第一歩です。


3. 継続性:事業を止めない“構造と人材”がカギ

「継続性」とは、時代が変わっても企業が生き残れる体制を持つことです。これは単に長く続けることではなく、**変化に対応し続けられる“組織の強さ”**を意味します。

● 事業承継は喫緊の課題

中小企業庁によれば、建設業における経営者の平均年齢は61.6歳(2023年)。後継者不在のまま事業を畳む企業が今後急増するリスクがあります。実際、2010年から2022年の12年間で、建設業の廃業率は年間平均2.4%と他業種より高めです。

つまり「社長一人に依存しない体制」が急務です。組織化・権限委譲・育成マニュアルの整備など、**“社長不在でも回る会社”**を意識すべきタイミングに来ています。

● デジタル対応の遅れが足を引っ張る

クラウド活用や業務DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進まない工務店ほど、若手の離職率が高くなりやすいという傾向も報告されています(リクルート住まいカンパニー調査 2022年)。

Excelと紙ベースから脱却し、**施工管理・顧客管理・営業活動の“見える化”**を進めることで、社内コミュニケーションも滑らかになり、トラブルの減少・業務効率化にもつながります。


4. 独自性:あなたの会社に頼みたい理由は何か?

人口が減り、競合がひしめくなかで選ばれるためには、「他社との違い」を明確にする必要があります。選ばれる理由=独自性の言語化が極めて重要です。

たとえば、

  • 「木材はすべて地元山林から伐採」

  • 「女性建築士が暮らし目線で提案」

  • 「職人が全員自社スタッフ」

など、どんな会社でも“他にない強み”は持っているはずです。ただし、それが顧客に伝わっていなければ、差別化にはなりません。

ブランド調査の多くでは、「共感できる会社」への選好傾向が強まっていることが示されています。家の性能だけでなく、会社の価値観やスタッフの人柄が選ばれる要因になるのです。

また、SNS・動画・Webサイトなどを通じたストーリー性ある情報発信も、独自性を高める手段として有効です。


終わりに:4つの要素は分断ではなく“連動”

「局地性」「収益性」「継続性」「独自性」は、それぞれ別々のテーマに見えて、実は連動しています。

  • 地元密着(局地性)によって顧客と強い関係性が築かれ、

  • その関係性を通じて価値で選ばれる構造(収益性)が整い、

  • 利益を元に人材やシステムへ再投資し(継続性)が確保され、

  • ブランド力を強化する取り組み(独自性)へとつながる。

この4つの好循環を意識しながら経営することが、人口減少社会においても選ばれ続ける「地域の工務店」としての成長モデルです。


■参考データ出典一覧

  • 国土交通省「建築着工統計調査」(2023年)

  • 中小企業庁「中小企業白書2023」

  • 国税庁「法人企業統計調査(建設業)」

  • リクルート住まいカンパニー「住宅購入者調査2022」

  • 帝国データバンク「後継者不在率データ(建設業)2023」

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